『雁』 森鷗外
新潮文庫 1948年
スポット 無縁坂
寂しい無縁坂を降りて、
藍染川のお歯黒のような水の流れ込む不忍の池の北側を廻って、
上野の山をぶらつく・・・。
無縁坂の途中で女中と二人暮らしのお玉は金貸しの未造の妾だが、大学で医学を学ぶ岡田を知り、次第に思慕の情を募らせていく。岡田と「僕」は無縁坂の近くに下宿しており、いつもこの坂道を歩く。お玉は岡田に思いを伝える決心をして岡田が無縁坂を通るのを待つが、その日に限り岡田は坂道を通らなかった。翌日岡田は留学してしまう。
庶民的な一女性の自我の目覚めとその挫折を岡田の友人である「僕」の回想形式をとり、一種のくすんだ哀愁味の中に描く作品。
「僕」と岡田の過ごした散歩道である無縁坂。
ここで岡田に思いを告白しようと待っていたお玉の心情を、無縁坂を吹く風に当たりながら感じてみる。ß