『茗荷谷の猫』より『てのひら』  木内昇

平凡社 2008年

スポット 不忍池周り



「大きな蓮だねぇ」
とはしゃぐ母が、
軽く足をひきずっているのに佳代子は気づいた。

『茗荷谷の猫』に収録されている短編作品9編のうちの1編。
上京した主人公は実家からきた母親と久しぶりに会い、東京観光をする。
途中、老いた母親に対するもどかしい思いが、不忍池で爆発する。
主人公は知らずのうち、東京の人としての考え方が身に付いてきたのだ。
東京の一角に存在する自然豊かな不忍池で、娘が老いた母親に対して抱いた苛立ち、悲しみにほだされている様子をしっとりと描いていく。
不忍池の「大きな蓮」を眺め、家族連れの会話を遠くに聞きながら『てのひら』を読む。
自然と家族や親の顔が浮かんでくるに違いない。

とじる