A,20歳の時に移り住んだから、40年になるかな。新宿の西口にヒッピーの溜まり場があって、そこで「立川の米軍ハウスが空いてるらしい」って話を聞いて、探しにきた。
A,こういう家の構造は当時なかった。段差も階段もない、バリアフリーの広い空間ていうのはね。当時の若者はみんな神田川の4畳半みたいな所に住んでいたけど、あんなのは恋人の3ヶ月にのみ許される空間。こういう広い空間は心に余裕を持たせてくれるよ。どう生きるか暮らすかっていう家政学がこの家には仕組まれている。
A,そう。昔は音楽家も多くて、夜中にがんがんロックかけてたりしてたね。でも誰も怒らない。芸術家は自分の心を豊かにする必要があるから、住む所にもある程度の広さは必要だと思う。だから今このxエリアはほとんど住人は芸術家。
A,みんなすごく仲が良い。家族ぐるみの付き合いになると、子どもが枕だけ持って隣の家に寝泊まりに行ったりね。そういう気心知れたご近所付き合いを通して、昔の下町の風景がここにはある。横に手を繋ぎ合うような感覚で、ここはもう昔の長屋のようなものなんだよね。
A,本当は周りに、yエリアやzエリアがあったんだよ。地主の関係で、今はご覧の通り、ポツンとxエリアしか残ってない。ここもあとどれくらい残るか分からないね。これから立川にはIKEAとかららぽーととか出来る予定でしょ。そしたら真っ先にここは潰しにかかられると思うよ。
A,立川は、基地の関係で戦後の評判は最悪だった。チンピラとかヤクザがはびこってて。昔の立川を知っている人は、未だに立川に悪印象を持っている人が多いくらいだよ。だから、立川は今、昔の姿を必死に隠そうとしているんだ。くさいものに蓋をして、歴史を隠している。だから、戦後の名残が見えるこの米軍ハウスも、本当はすぐにでも潰したいと思っているんじゃないかなぁ。
A,私は妻や子どもと一緒に暮らしていくうちに、この米軍ハウスの本当の良さが分かった。家族とのコミュニケーションがとりやすいのが1番のメリットかな。日本の住宅は玄関入るとすぐに廊下でしょう。だから子どもが帰ってきて、すぐに自室にこもってしまっても気付かない。でもこの家は違う。ほぼ真四角のような形だから廊下なんてなくて、玄関に入るとすぐにリビングがある。だから子どもの様子も否が応でも分かるし、コミュニケーションがとれる。最初はアメリカへの憧れだけでこの家に引っ越したけど、家族が出来てからはそういうメリットに気付いたね。